■シェーバーこと始め
あなたが毎朝使っているシェーバー(電気カミソリ)はいつ、だれ、が作ったのか知っていますか?

■レミントン社   
Remington Products Campany L.L.C.


シックが創り出した電気シェーバーというビジネスに十指に余る会社が参入、ジレットさえも電気シェーバを出しています。
そんな中で「レミントン」は現存する唯一の米国ブランドです。 ヤコブ・シックが創り出した電気シェーバーは新しいライフスタイルの象徴として他の電気製品とともに新ビジネスとして注目されます。
従来の剃刀が「水と石鹸」が必須だったことに比べられてDRY SHAVERと呼ばれました。 民生用のタイプライターを初めて実用化したレミントン社もこのDRY SHAVERビジネスに注目、シェーバー事業部を立ち上げます。
1939年のニューヨーク万博に出展して積極的に宣伝。前回のシカゴ万博ではシック・シェバーが宣伝され、万博はいつも新しい「モノ」の宣伝の場になります。
レミントンというブランドはライフルなどの銃器産業でも有名です。同じ会社と言われることもあります。この辺の由来から調べてみることにします。


・合併と買収で変遷するブランドと会社

1818

エリファレット・レミントンが1818年にニューヨークに興したライフル製造工場から始まります。 社名はE.Remington & Sons と言いました。


1873

QWERTY配列のタイプライターをはじめて実用化。 クリストファー・ショールズ(タイプライターの発明者)と共にキー配列を改善したタイプライターを開発。彼らが採用したQWERTY(クワティー)配列は今日のキーボード配列のスタンダードになっています。
【キーボードの3段目が左からQ-W-E-R-T-Yと並んでいるところからこのように呼ばれるようになりました】
■「ナゼこのQWERTY配列になったか?」には諸説あります。私の好きな話は、タイプライターのセールスマンがTYPE WRITERという綴りをすばやく打てるように一列に並べた、という説です。(ちょっと出来すぎた話のようですが、、


1886

E.Remington & Sons 社はタイプライターのビジネスを「レミントン」というブランドと共にスタンダード・タイプライター社に売却。
■ちなみにE.Remington & Sons 社は後にレミントン・アームズ(Remington Arms)銃器会社と社名を変えます。ここも合併・買収をくり返し、現在のライフルなどを製造しているレミントンUMC社になっています。
■ここでタイプライターの「レミントン」と、銃器の「レミントン」が分かれました、タイプライターの「レミントン」が将来シェーバーを作ることになります。


1902

スタンダード・タイプライター社は商品名の『レミントン』の認知度が高いところから社名を「レミントン・タイプライター社」と変更。


1927

レミントン・タイプライター社はランド・カーデックス社と合併、レミントン・ランド社(Remington Rand)となります。
■この合併でレミントン・ランド社はタイプライターから計算機、会計機など総合事務機器メーカとなり、後にIBM社とパンチ・カード式の会計機の市場を二分することになる。


1936

レミントン・ランド社内に「エレクトリックシェーバー事業部」が設立される。
■副社長ハリー・ランドシーデルがエレクトリックシェーバー事業部をつくり事業部長を務めます。 シックが電気シェーバーを発明し、パッカードレクトロシェーバーなど競合も出現。1936年は電気シェーバービジネスの黎明期でレミントン社もこの新しい産業に将来性を見出したのでしょう。


1937

最初のレミントン・シェーバーMODEL‐E:「CLOSE-SHAVER」を発売。 

■これは「CLOSE-SHAVER」の雑誌広告です。「世界最大の精密機器メーカー・レミントン・ランドが満を持して電動シェーバーを開発」とうたっています。

■円筒形のヘッド形状から「パッカード・レクトロシェーバーのような」と形容されることもありますが、実際はシック社のモデル‐Rを徹底的にベンチマークした構造をしています。比較写真のようにサイズはレミントンがひと回り大きい。

■外刃は外径8ミリ足らずの丸断面に37個のミゾ刃(25ミリ幅)をもち、内接する内刃は外径6.8ミリで20個のミゾ刃をもっています。形状は丸断面のためレクトロシェーバーに似ていますが、原理はシック社と同じ『往復・ミゾ刃』です。レミントンは後年角型のミゾ刃に発展して長く「往復ミゾ刃方式」を採用しますが、最初のモデル「CLOSE-SHAVER」、次の2枚刃の「DUAL」、その後の4枚刃「FOUR-SOME」まで丸断面を採用しています。

■内刃は鋼鈑を丸めて中空の丸材をつくり横断的に刃を切り出しています。注目するのはミゾ刃が約4度の挟み角を持って切り出されていることです。 刃に「挟み角」を備えた世界最初のシェーバーと言えるのではないでしょうか。

■外刃は内刃の挟み角に呼応して角度をもっているよう見えますが、ミゾ刃に挟み角は無く、全部で5つ(スリットを4箇所つなぎ、小さなミゾx3っ+長いミゾx2っの5分割)のミゾの位置を少しずつずらして配置しているだけです。レミントンもシック社にパテント侵害で告訴されますが幾つかのパテントは取得したようです。パテント申請書に事業部長ハリー・ランドシーデルの名前が残っています。


1940

二枚刃シェーバー(TWO HEAD SHAVER)‐レミントン・デュアル(REMINGTON DUAL)発売

1941

今風に言えば4枚刃モデル MODEL-W :レミントン・フォーサム(REMINGTON FOURSOME)を発売。

■手もとにある1941年刊ライフ誌のFOUR-SOMEの広告では3個の丸断面ミゾ刃+くし刃で合計4枚(FOUR)でしたが、1946年製のFOUR-SOME(モデル‐W)は2個の丸断面ミゾ刃+角断面ミゾ刃の「両端」を合計して4枚(FOUR)と呼んでいます。後年新世代の「角型ミゾ刃(twin BLUE STREAK HEAD)」を導入してモデルチェンジしヘッドのコンパクト化を図った、と考えられます。


1955

レミントン・ランド社がスペリー社と合併、スペリー・ランド社となります。

1960

社名からレミントンが消えスペリー・ランド社となってもシェーバー・ビジネスは「レミントン事業部」でした。 この年、「世界最初」の「充電電池」を電源にしたシェーバー”LEKTRONICS”発売。電池はニッケルカドミニウム電池で数日間のコードレスシェービングが可能でした。


1975

これまでレミントン・シェーバーはシックの時代から続いたミゾ刃(SLOT HEAD)にこだわって来ましたが、独・ブラウン社の採用した網刃の方が薄く、肌あたりもソフトなところからレミントン・シェーバーも網刃(FOIL)を採用。レミントンは「ソフトタッチ(SOFT-TOUCH)」と呼んでいます。


1976

『レミントン・シェーバーが好きなので、会社を買った』

■ビクター・カイアム(Victor Kiam)氏によりシェーバー部門が買収され、レミントン・プロダクツ社(Remington Products Inc.)として独立。 これが現在のレミントン
・シェーバーの直接の元祖です。 ビクター
・カイアム自身がTVコマーシャルに出演「レミントンを買収してしまうほどに、このレミントン
・シェーバーが気に入っている」と訴え話題になった。その他ほとんどのTVコマーシャルに出演、ビクター
・カイアム自身がブランドのアイコンになってビジネスを牽引しました。
■このころ日本支社レミントン・ジャパンもあり、日本の家電店でも「アメリカNO.1シェーバー」というバナー付でレミントンシェーバの全モデルが並んでいたことがあります。
■大きくて重たいモデルばかりでしたが、2枚の網刃+大型トリマーの組み合わせで実力的には一番深ぞりが可能と言われた。今でも使用されているものも少なくない。
■この後 スペリー・ランドはバロウ社に合併され、ユニシス社(Unisys)となる


1995

ビクター・カイアムは株の一部を投資会社のベスター・キャピタル・パートナーズ(Vester Capital Partners)に売却、ベスター・キャピタルは最終的に40%の株式を取得、ビクター・カイアムは会長にとどまるが、実権はベスター・キャピタルへ。
■この頃からヘッド(外刃、内刃)だけ内製して、シェーバーの開発・製造を外注することが多くなり、ビクター・カイアムに「レミントンシェーバーが好きだ、、、」と言わせた質実剛健な製品コンセプトが薄れ、生産拠点も中国へと変わっていきます。
またアメリカ市場でトップシェアーの「ノレルコ社」の『回転ミゾ刃方式』に対抗して同方式シェーバーを投入、現在レミントン・プロダクツ社は「往復網刃方式」と「回転ミゾ刃方式」という競合する両方式を同一ブランドで提供することになります。


2001

ビクター・カイアム氏 死亡
<BBC NEWS 記事>


2003

レイオバック社(Rayovac:米国電池メーカー)に買収され現在に至る。レイオバック社は独・電池メーカのVARTAの民生電池部門も買収していて、世界第三位の電池メーカーと言われています。


2004

最初のレミントン・ランド シェーバー部門から半世紀以上本社所在地であったコネティカット州ブリッジポートからレイオバック社ゆかりのウイスコンシン州に移転。
コネティカットはシック・ドライシェーバーをはじめレクトロ・シェーバー、レミントンなど米国の電気シェーバーのメッカだったことになります。


現在

世界規模でマーケティングしていますが、製品レンジをみると米国市場とその他地域に分かれます。
レイオバック社がもっているすべてのブランドをコントロールするスペクトラム・ブランド・インク(Spectrum Brands Inc.,) という会社の傘下に入っており、Rayobac,とVARTAが電池、Remington はグルーミング・プロダクツ、そのほかガーデニング関連3社、殺虫剤関連3社、ペット関連3社と全15社におよびます。
2004年にウイスコンシン州に移転して、米国内のマネージメントは直接スペクトラム・ブランド・インクが行っているようです。
Spectrum Brands, Inc., Madison, WI, 53711, U.S.A. http://www.remington-products.com/
日本市場は、1980年代にレミントン・ジャパンが導入してからしばらくブランクがありました。2003年に往復網刃式3モデル(MS3-2000,-3000, -4000)限定的に家電量販店で販売開始したが、現在は廃番になっている。
詳細はあらためて、、、。